海洋データ同化夏の学校2025@むつ

(2025年8月 山崎哲@A03-8)

海洋データ同化夏の学校は、毎年夏に青森県むつ市で開催されるサマースクールで、これまでに29回も開催されてきた驚異的イベントです。今年も、日本海洋科学財団と統計数理科学研究所のご支援を受け、8月25日〜28日にプラザホテルむつで開催されました。このサマースクールには、これまでハビタブル日本の研究者、ECHOESの学生が多く参加しています。データ同化を行うA02-6班(代表:榎本剛)のメンバーだけでなく、他班の多くのメンバーもこの夏の学校に関わっています。

サマースクールでは、データ同化の基礎を勉強し、参加者から研究発表・企業紹介やデータ同化についてのお悩み相談などが行われます。特筆すべき点に、参加者が自分のパソコンを持参して、簡易な海洋・大気の問題(モデル)に対して実際にデータ同化を行う演習が設けられていることです。今年は4つの初級と3つの中級の班に分かれて、各班にチューターがついて演習に取り組みました。最終日には、各班が発表を行い、演習の成果を報告する時間が設けられました。この演習の取り組みは2012年に始まり、今ではプログラム言語についてFortranかPythonを選ぶことが可能です。

今年は、碓氷典久(A03-7代表)がサマースクールの校長を務め、榎本剛、藤井陽介(A02-6)、中下早織(A02-6、ECHOES)、大石俊(A03-7)、山崎哲(A03-8)が実行委員として運営に関わりました。中下は、データ同化の基礎編の講義を担当しました。演習では、魚種交替・海洋生態系のモデルを使った初級課題、中緯度偏西風の振る舞いを簡易化したLorenz96モデルを使った中級課題に取り組みました。演習では、実際の大気・海洋現象のデータ同化手法としてよく使われるKalmanフィルター・4次元変分法を学びました。夏の学校では、大変な演習だけでなく、口頭・ポスター講演で参加者の研究トピックや企業でのデータ同化の取り組みについて学ぶことができ、またレクリエーションとしてBBQ(美味しい海産物が食べられる)での懇親会があり、大人から学生まで多いに楽しめる学校となりました。

来年度は、第30回の記念大会で、碓氷が校長を務める予定です。そして、藤井や木戸晶一郎(A01-1)が主催するSynObsの国際ワークショップと共同開催となる予定です。ハビタブル日本の関係者や、多くのデータ同化に興味のある方々のご参加を期待しております。

ECHOES参加者より

野村鈴音(京大)
今回が2回目の参加でした。参加理由は、データ同化について言葉や数式でおおよそのイメージは持てても、自力でコーディングすることができないという課題を克服したかったためです。私の班は、初級課題に取り組み、システムの安定性の解析やコスト関数の変更、拡張カルマンフィルタと4次元変分法の比較などを行いました。実質2日程度の演習でしたが、朝から晩までデータ同化のことだけを考えている時間で、今後研究を進めていく上で宝のような経験になりました。

田村優樹人(東大)
初参加でした。データ同化は知識・経験ともに素人でした。初日の夜に、YouTubeに投稿されている過去の講義の動画を見て予習をしました。2日目午前の講義では誤差の説明から多変数のデータ同化までを一気に学ぶことができました。初心者の方は、これらの動画を事前に見ておくと、講義の内容をより深く理解できると思います。演習では初級課題に取り組み、短期間ではあったものの4次元変分法について理解を深める大変貴重な機会になりました。その他、昼食・夕食・BBQの時間には、学会では巡り会わない数学系の学生や民間企業からの参加者たちと交流することができました。

富田蒼(三重大)
データ同化夏の学校へは2年ぶり2回目の参加でした。前回は初級課題のカルマンフィルタに取り組みましたが、今回は中級課題の4次元変分法に挑戦しました。自分でアジョイントコードを書いてみることでコーディングの困難さを肌で感じましたが、手法への理解が深まり良い体験となりました。また懇親会ではおいしい海産物とともに、さまざまな分野の方と親睦を深めることができ、とても楽しかったです。来年度は今回と異なる開催形式となるとのことですが、ぜひ参加したいと思います、よろしくお願いいたします。

実行委員より

榎本(A02-6)
2025年度の初級課題は魚種交替や海洋生態系モデルの基礎となった非線型モデルを題材に取り上げました。変分法データ同化に不可欠な随伴モデルの作り方について、丁寧に解説しました。非線型なモデルの初期値依存性や誤差成長の特性、観測の影響、変分法やカルマンフィルタの特性などを丁寧に調べている様子が印象的でした。中級の班では出題したモデルとは別のモデルの随伴の作成に取り組む受講生もおり、ハビタブルを担う人材の育成やデータ同化の普及に貢献できたのではないかと思います。なお、資料は公開していますので、参加されなかった方も参照していただけます。

藤井(A02-6)
今年も多様な受講生が集まりましたが、どの方もお話を伺うと新しい知識を得る意欲を強く持っていて、とても活気のある夏の学校だったと思います。また、最近では実行委員会の若返りも進んでいて、若手の実行委員の講義や議論でそのデータ同化に関する知識の深さに驚かされることも度々で、とても頼もしく感じました。なお、来年は第30回の記念大会で、国連海洋科学の10年プロジェクトSynObsの国際ワークショップとも共同開催とする予定で準備を進めていますので、ご関心のある方は、是非ご参加下さい。

中下(A02-6、ECHOES)
今年度から初めて実行委員として参加し、講義と初級課題のチューターを担当させていただきました。講義では、基本的な理解を問われる質問を多数いただき、自分の理解がまだまだ足りていないことを実感するとともに、データ同化の奥深さを改めて感じました。演習課題では、簡単なモデルに対する課題であっても、異なる分野からの参加者の皆さんがそれぞれ自分の分野の課題に置き換えて考えている姿がとても印象的で、刺激をもらいました。

山崎(A03-8)
この夏の学校への参加は10回以上となります。データ同化の素人の状態で初参加し、今では実行委員に加えてもらえるようになりました。ご存知の通りデータ同化は数学的に難しいですが、長く続けていると、多くのデータ同化のプロと一緒にいろんなことができるようになりました。データ同化には数理的な側面と実装的な側面があります。今回の夏の学校に参加して、特に前者の側面をもっと鍛えないと、と思いました。

夏の学校開会式の様子。大石(A02-6)が夏の学校の過ごし方を説明中。

懇親会(BBQ)の風景1。JAMSTECむつ研究所元所長の渡邉さんがご挨拶。

懇親会(BBQ)の風景2。美味しい食べ物やお酒を楽しみました。

プログラミング演習の風景。最終日の班ごとの発表会に向けて議論。

夏の学校最終日での校長の碓氷(A03-7)からコメント。