「南岸低気圧」が春に多いのはなぜ?-特徴的な季節性をもたらすメカニズム

なぜ南岸低気圧は「真冬」ではなく「春先」に多くなるのか?

西から東へ移動する温帯低気圧は、日本の天気に大きな影響を与えます。その中でも、本州の南の海上を黒潮に沿うように進む「南岸低気圧」は、太平洋側の人口・産業が集中している都市部に、時として大雨や大雪をもたらします。例えば、2014年2月に関東に記録的な大雪をもたらした2つの低気圧がこの典型です。南岸低気圧が本州南岸に接近しても、冷たい空気(寒気)が低気圧の進行経路の北側に引き込まれ、関東平野などで気温が低い状態が維持されて、平野部でも雪を降らせることがあります。

このような南岸低気圧の活動は、過去の研究から、真冬(1月)よりも春先(2月~4月)にかけて最も活発になることが知られていました。(注:本記事では、低気圧の活動が特に活発な2月から4月を「春」として扱います。)

しかし、「なぜ真冬ではなく、秋でもなく、春に低気圧の活動がピークを迎えるのか?」という根本的な仕組みは、これまで解明されていませんでした。

本研究では、コンピュータシミュレーションや観測データを用いて、南岸低気圧が春に増える具体的なメカニズムの解明に挑みました。

図1 南岸低気圧の活動と春の降水ピーク。
(左)東アジアの各都市における降水・気温の季節変化と人口密度(色、人/平方km)。赤:降水量が3月でピークになる都市。紫:3月に降水量が増加する都市。多くの都市で春に雨(雪)のピークが見られることを示しています。
(右上)春(2~4月)における低気圧の発生頻度。青矢印:上空約1,500mの風(下層の風の流れ)。黒線:風速(風の強さ)。日本南岸から東シナ海周辺で線が袋状になっており、風速が局所的に大きくなっている部分(下層ジェット気流と呼ばれる強い西風)が存在することがわかります。破線枠(四角):この枠内を通過する低気圧を「南岸低気圧」として追跡するためのエリアを示しています。
(右下)南岸低気圧の頻度の季節変化。春にかけて低気圧の頻度がピークを迎えることが分かります。
春のピークの鍵は「下層ジェット気流」の発達

解析の結果、南岸低気圧が春に増える要因として、東シナ海周辺で低気圧が発生する頻度が春に多くなることが極めて重要であることが判明しました(図1右)。

そして、この春の低気圧発生の増加は、ユーラシア大陸の東端、華南~東シナ海周辺で強まる「下層ジェット気流」(地上近くの特に強い西風の流れ)と密接に関連していました。

下層ジェット気流が春にかけて発達すると、それに伴って東シナ海周辺で空気の温度や性質が異なる境界、すなわち「前線」がより多く形成されるようになります。この前線に沿って、低気圧が発生しやすくなります。

メカニズムの解明:大陸の暖まりが下層ジェット気流を強化する

私たちは、さらに「なぜ春に下層ジェット気流が発達するのか?」を調べるため、簡略化した大気モデルのシミュレーションを行いました。その結果、以下のメカニズムが明らかになりました。

  • 大陸の暖まり(冬から春へ): 冬から春にかけて、ユーラシア大陸上が太陽の日差しなどで暖められます(図2の橙色部分)。
  • 上空の風に乗って暖気が流れる: その暖められた空気が、上空を流れる大きな西風(図2で西から東に向かっている薄い太矢印)に乗り、風下側である東シナ海周辺の上空も暖められます(図2の赤色部分)。
  • ジェット気流が発達し、前線が発生しやすくなる: この上空の暖まりへの応答として、地面・海面近くで大規模な空気の流れ(図2の反時計回りの2本の薄紅色の矢印)が生じ、東シナ海周辺で下層ジェット気流が発達します(図2の灰色の細矢印と黒線)。
  • 低気圧の発生と発達: 発達した下層ジェット気流に伴って前線(図2の紫線)が多く形成され、ここに低気圧(図2の赤丸のL)が発生しやすくなります。この低気圧は、南から水蒸気(図2の紺色の破線)を引き込みながら発達し、本州南岸に達することで、春に南岸低気圧の頻度がピークとなるのです。
図2 本研究で明らかになった、南岸低気圧の活動が春にピークを迎えるメカニズムの模式図

本研究によって、日本の社会・経済に大きな影響を及ぼす「南岸低気圧」がなぜ春に多くなるのか、その具体的なメカニズムが解明されました。この成果は、東アジアの季節予報の精度向上や、将来の気候変動(温暖化)が日本の天気にどのような影響をもたらすかを理解するための重要な基盤となります。今後は、海洋の変動などを介した南岸低気圧の活動の予測可能性や、温暖化時の活動の変化の調査に取り組む予定です。

この研究の詳細については、以下の論文をご覧ください。
Okajima S., H. Nakamura, A. Kuwano-Yoshida, and R. Parfitt (2025): Mechanisms for an Early Spring Peak of Extratropical Cyclone Activity in East Asia. Journal of Climate, 38, 1981–1997, doi:10.1175/JCLI-D-24-0203.1.

(2025年11月 岡島悟@A01-3, ECHOES)