黒潮続流が青森県沖に!? ― 2023年以降、三陸沖で何が起きているのか?
黒潮とは、本州南岸に沿って流れ、千葉県房総沖からは「黒潮続流」として太平洋へ流れ出す、世界最大級の暖流です(図1上段)。ところが、2022年末ごろから、この黒潮続流が北へ進路を取り始め、茨城を越え、福島、宮城、岩手、そして2023年冬にはついに青森県沖にまで到達しました(図1)。これは人工衛星観測の記録が残る1993年以降で初めて起こった異常な蛇行であり、世界三大漁場の1つとして知られる三陸沖の海洋環境を大きく変える事態となりました。この異常な状態は2025年2月ごろまで続き、現在(2025年9月)では黒潮続流は茨城県沖を流れて一時的に落ち着いています。

この黒潮続流の異常な蛇行が起こっていた2年間(2023年2月〜2025年1月)、三陸沖の海面水温は平年より6℃も高い状態が続きました(図2)。これは世界の海を見渡しても最大であり、1850年まで遡っても2年もの長期間にわたって6℃も高い状態が続いた海域は他にありません。まさに「世界で最も熱くなった海」となっていたのです。

では、この異常な水温上昇はどれくらい深くまで達していたのでしょうか。気象庁などが実施した観測航海のデータを解析したところ、この水温上昇は海面付近にとどまらず、深さ700mにまで及んでいることがわかりました。このような海の奥深くまで温められた状況のもとで、生態系にも変化が見られるようになりました。テンジクダイやミナミクルマダイといった南の暖かい海をすみかとする魚が、宮城県沖で初めて確認されたのです。これまで水揚げされることのなかった魚が取れ始め、漁場や地域の漁業に深刻な影響を及ぼしつつあります。
この「海の異常」はやがて「空の異常」へと波及しました。海が高温であるため、冬には海から大気に向けて放出される熱が大きく増え、三陸沖の気温を上昇させ、その影響は上空2000メートルにまで及んでいました(図3)。つまり、黒潮続流の北への異常蛇行が、海の温度だけでなく大気の構造そのものを変えていたのです。

こうした変わりつつある三陸沖の姿を理解するため、私たちは2025年6月下旬から7月上旬にかけて、新青丸と勢水丸による観測航海を実施しました。現在、得られたデータを分析し、海の中で起こった変化を解析していることころです。続報をお待ちください。
現状の黒潮続流は小康状態にあるものの、今後の動きは依然として予断を許しません。再び北に大きく蛇行する可能性もあり、その進路次第で三陸沖の海と空、さらには私たちの暮らしは大きく揺さぶられることになるでしょう。だからこそ、海深くから空高くまでを一気通貫で観測できる船による継続的な現場監視が不可欠なのです。
この研究の詳細は以下の論文をご覧ください:
Sugimoto, S., A. Kojima, T. Sakamoto, Y. Kawakami, and H. Nakano (2025): Influence of extreme northward meandered Kuroshio Extension during 2023–2024 on ocean–atmosphere conditions in the Sanriku offshore region, Japan. Journal of Oceanography, 81, 203–215, doi:10.1007/s10872-025-00747-x.
(2025年9月 杉本周作@A01-1)