2025年夏 三陸沖観測キャンペーン
概要
海洋熱波が続く三陸沖の海域において、高水温が「やませ」などの気象現象に与える影響を解明するため、新青丸(JAMSTEC)、勢水丸(三重大学)、大槌沿岸センター(東京大学大気海洋研究所)という「2隻+ 陸上固定点」での大気・海洋観測を実施しました。
- 新青丸: 横須賀(6/20)→ 函館(7/4)
- 勢水丸: 松阪(6/25)→ 塩釜(7/1)、塩釜(7/5)→松坂(7/8)
- 大槌: 6/27~7/2
観測期間中、6月27日17時から30日06時まで61時間にわたって行われた集中観測では、3カ所で1時間毎にラジオゾンデ観測(+ 船ではXCTD観測)を実施し、高解像度な大気海洋データを取得しました。新青丸と勢水丸は南北移動し暖水域と冷水域を行ったり来たりしながら、三陸沖海域を格子状に観測しました。今回の観測では、暖水域での濃霧の発生や大気下層での風の急変など、様々な現象が捉えられました。(西川はつみ@観測推進チーム)


ECHOES参加者の声
Hou HungChun(東北大学M2)
2025年6月20日から7月4日にかけて実施された新青丸のKS-25-5次航海に参加しました。
今回の航海は、北上した黒潮続流およびそこから切り離された暖水渦を対象に、それらがもたらす暖かい海水が海洋および大気にどのような影響を与えるのかを調べることを目的として行われました。さらに、6月27日から30日には、勢水丸および岩手県大槌の陸上観測チームと連携し、三陸沖における三点同時観測も実施されました。
本航海では、CTD観測、XCTD観測、ラジオゾンデ観測などが行われました。私はこれまでの航海でラジオゾンデ観測の経験はありましたが、CTDおよび新青丸方式のXCTD観測は今回が初めての経験でした。実際に観測作業に携わることで、日頃の研究で扱っている何百万件ものデータがどのように取得されているのかを改めて実感し、その大変さや観測データの貴重さを強く認識しました。
航海前は難しそうに感じていたラジオゾンデの放球も、繰り返し経験を重ねることで次第に慣れていきました。新青丸にはゾンデコンテナが設置されていますが、風向きによっては手放球が必要になる場面もありました。また、ゾンデコンテナのおかげで、今回初めて自動放球も体験することができました。
今回の航海では、CTD観測後の採水も初めて経験しました。溶存酸素などの測定値は採水方法に非常に敏感であり、たとえば気泡を入れてしまうなど、わずかなミスが採取サンプルの精度に影響を与える可能性があるため、細心の注意が求められました。
航海中はいくつかのトラブルもありましたが、すべて無事に対応でき、予定していた全観測点でデータを取得することができました。限られた船上資源の中で機材トラブルに対処するには、創意工夫と柔軟な対応が不可欠であり、この経験から航海中の臨機応変さの重要性を学ぶことができました。
観測作業だけでなく、今回の航海では他大学からの学生や教員、研究者の方々と交流する機会にも恵まれました。最前線で研究を進めておられる皆さんと一緒に観測に参加し、議論できたことは、私にとって大変貴重な経験となりました。




中尾 優心(新潟大学B4)
2025年6月25日から7月8日に行われた三重大学練習船「勢水丸」の航海観測に参加しました。この観測では、黒潮続流の異常北偏により生じた三陸沖への影響と親潮続流との海洋前線の集中観測を目的として、ラジオゾンデ、XCTD、CTDなどによる観測を行いました。
私はラジオゾンデやXCTDの観測機器の準備から実際の観測までと観測したデータの解析と様々な役割を担当させていただけました。観測機器の準備や観測の経験が少なく、最初は色々と戸惑いながらの観測でしたが、何回も観測を行うにつれて余裕が生まれていき最後までしっかりと観測することができました。一方、データの解析では、自分たちで努力して手に入れた誰も見たことのないデータを最初に解析できるという観測ならではの貴重な経験をすることができ、さらに、乗船していた研究者や学生の方々との議論をする中で新たな学びや解析方法のアドバイスなどこれからの研究活動で役立つ知識や情報をたくさん得ることもできました。
また、今回は黒潮続流からの暖水渦と親潮続流からの冷水域を交互に行き来しながら60時間以上にわたる1時間おきの集中観測や三陸沿岸付近での観測、三陸沖から黒潮本体へ向かっての観測と複数の観測を行い、変化し続ける船周辺の気象を自分の体でしっかりと感じました。その中でも特に、集中観測期間中は暖水域上では温かく、冷水域上では上着が欲しいと思うほど寒いくらいの気温差を感じたことが記憶に残っています。
今回の航海観測は、自分でデータを得ることや気象の研究をしてる同級生・先輩方との交流など非常に良い経験になりました。この航海に参加することができて本当に良かったです。



吉田伊吹(三重大学M1)
2025年夏に実施された三陸沖観測キャンペーンに参加しました。ターゲットは、近年異常な高温を示している三陸沖の海です。海面水温の実態と、そこに形成される水温前線が大気に与える影響を調査しました。
私は6/25ー7/8の2週間、勢水丸に乗船していました。船上では、ラジオゾンデによる大気観測と、XCTDおよびバケツ採水による海洋観測を行いました。勢水丸には学生が多く乗っており、観測は手作業です。62時間にわたる集中観測を含めた計100地点弱の観測に、ワッチ(当番制)を組んで臨みます。私は深夜ー朝の時間帯を担当しました。現場の手作業で現象を体感できるのが何よりの魅力だと思います。五感を研ぎ澄ませながら、松阪港を出発し観測地点へと向かいました。
船は熱帯低気圧や黒潮の影響を受け、千葉沖で荒れのピークを迎えます。寝ていても揺れと物音(ガシャーン!おえぇ!と壮絶でした)で目が覚めるほどです。しかし航海が進むにつれて、だんだんと海況は穏やかになっていきます。
集中観測前半は風に悩まされました。ラジオゾンデはバルーンに取り付けて放球するので、船にぶつからないよう風向きが重要です。船員さんは、我々が作業しやすいよう、常に船をコントロールしてくれました。しかしワッチ1周目の最終放球、船を取り巻く下向きの乱気流に巻き込まれゾンデが水没し、再放球になってしまいます。失敗したら集中観測の結果に穴ができるというプレッシャーの中、バルーンの大きさや放球位置、タイミングを工夫して再放球。ゾンデは大きな波の谷間すれすれで弧を描きながら上昇していき、見事成功。全員ガッツポーズの場面でした。
観測中は何か考えないと楽しくないので、皆で水温前線を感じようとしていました。バケツ採水の水温を描き、前線が明瞭になっていくと歓声が上がります。気象庁などの再解析データを参考に航路を決めていますが、実際に観測してみると異なることも少なくありませんでした。リアルタイムで議論を重ねながら観測を進めました。気温の変化を感じるために、半袖一貫でデッキにいましたが予想外に寒い。陸は蒸し暑かったですが、海の上って涼しいんですね。。。
後半は穏やかで、海面はまるで鏡のような凪でした。「海ってこんなに静かな一面があるのか」と驚いたのを覚えています。すると夜、漁業活動中の多数の船に遭遇しました。狙いは同じで潮目なので、こうなるのも納得です。臨機応変に観測点をずらしながら観測を続けました。後から図を見ると、漁師の経験に基づく潮目の見極めは本当に見事で、船内では「あっちの船なら最高の観測ができるかも」という感心の声も。
今回の勢水丸の第二の目的は、バイオロギングでした。大槌で保護した大きな(最大150kg!)カメを様々な水温の海域で放し、どちらを目指して泳ぐのか調べます。運搬中は餌であるクラゲを与えたり。長い航海の癒しでした。
素晴らしい体験ができました。この体験を成果につなげるべく、これから観測結果の解析をしていきます。一つでも多くの成果が得られることを願っています。



小川泰生(京都大学M2)
2025年6月25日から7月2日まで、東大大気海洋研 大槌沿岸センターで行われたラジオゾンデ集中観測に参加しました。この観測の狙いは、三陸沖を航行する「新青丸」「勢水丸」と同時に、高頻度でラジオゾンデを放つことで、海洋前線帯における大気境界層の時空間変動を詳細に捉えよう!というものです。前身のHotspot2では、東シナ海で3隻同時観測を行なったそうですが、今回は2隻+定点観測というところがポイントです。定点観測データがあれば、時間変化と空間変化を分離しやすくなります。また、「船酔いが心配だから大槌に参加することにした」という方もいたので、観測の門戸を広げる効果もあったのではないでしょうか。
さて、大槌での観測メンバーは、プロ3名、修士学生8名、学部生2名の計13名でした。0-4時(ぜろよん)、4-8時(よんぱー)、8-0時(ぱーぜろ)のシフトに分かれ、交代制で24時間観測を行いました。私自身は「よんぱー」でしたが、朝焼けも夕焼けも見られるうえに暑さも厳しくなく、非常においしいシフトでした。一方で他の2つのシフトでは満天の星空が見られたようで、その点は羨ましくもありました。
「よんぱー」はほぼ常に明るい時間帯だったので、いろいろな大気現象に出会えました。というより、一緒に観測したメンバーがそれに気づかせてくれました。Tさんは波打つ雲を指差して、あれは大気重力波じゃないかと話してくれました。Aさんは天使の梯子を誰よりも早く見つけて教えてくれました。KさんとHさんはとある日の朝に出現した濃い霧に大興奮して、たくさん写真を撮っていました。この霧は、どうやらその日のその時間帯に特有の気象・海洋条件が生んだものだったようで、Hさんは詳細な解析をしたいと意気込んでいました。いつもスマホが隣にあるこの時代に、一緒に空を眺めて語り合える仲間がいる幸せを噛みしめました。
また、同時期に大槌センターに滞在していた、東大大気海洋研 行動生態計測分野の皆さん(我々はウミガメチームと呼んでいました)からも良い刺激を受けました。早朝から動き出し、漁師さんの定置網に偶然かかったウミガメを譲り受け、計測を行ったのち、ロガーをつけて放流しているそうです。海洋内部の状態を連続的に記録したデータは、物理を専門とする我々にとっても貴重です。残念ながら、お互いにスケジュールが大きく異なっていたため交流の機会は限られましたが、今後も交流の機会があれば、お互いに三陸沖の海洋の状態に関する理解を深められるのではないかと思います。慣れた手つきで魚を捌いて自炊するウミガメチームの皆さんの姿には、フィールドワークを生業とする研究者たちの力強い生命力を感じました。
私自身、これまでも何度か観測に参加させていただきましたが、今回は特に余韻が残り、自然とデータ解析の手が進み、結果にわくわくしています。研究の素朴な楽しさを再認識させてくれた、貴重な機会でした。



観測キャンペーン期間中のNEWS
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