領域概要

研究概要

近年の日本周辺域の大気・海洋の変化。
背景は2023年8月23日の海面水温の平年差(単位:℃。気象庁)

2023年夏の猛暑は記憶に新しい。その原因は地球温暖化、日本上空の偏西風の蛇行、そして海水温の異常な高さである。この1年ほど、東北沖の太平洋では水温が平年より5~6℃高い「海洋熱波」と呼ばれる状態が続いている。これは黒潮続流(南から暖かい水を運んでくる黒潮が日本南岸を離れた後の呼び名)が東北沖で北に大きく偏っているためである。一方、北から冷たい水を運んでくる親潮は2010年代半ば以降、北に大きく後退している。2023年夏は日本海も異常高温、さらに日本の南では2017年以降、黒潮が観測史上最長記録を更新して大蛇行流路をとり続けており、日本周辺の海流は過去とは大きく異なる様相を見せはじめている。このような海流や海水温の変化は、水産にも大きく影響する。日本周辺では近年、親潮の後退によりサンマやイカの漁獲が急減する一方、ブリなどの魚が生息域を北に大きく広げている。

このように大きな変化が見られる日本周辺域では、冬季に北西のモンスーン(季節風)が暖かい黒潮の上を吹き、海洋から大気に大量の熱が放出される。その量は北大西洋のメキシコ湾流の2倍と、世界最大であり、大洋の西岸境界域としての代表性を有している。一方で日本は、大陸との間に日本海が存在する点が、世界の他の西岸境界域とは大きく異なる。日本海を北上する対馬暖流が北西モンスーンに水蒸気を供給し、日本海沿岸を世界有数の豪雪地帯にしている。新学術領域研究「気候系のhot spot:熱帯と寒帯が近接するモンスーンアジアの大気海洋結合変動」(通称:Hotspot1。2010~14年度)では、日本周辺の中緯度の海洋が大気に能動的に影響する「気候系のhotspot」であることを世界に先駆けて示した。

加えて、日本周辺域では、温暖化に伴って海水温が急上昇しており、台風・豪雨・豪雪等の気象災害の頻度も長期的に増している。新学術領域研究「変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot」(通称:Hotspot2。2019~23年度)では、温暖化のもとでの「気候系のhotspot」の役割を解明してきた。このような物理的重要性に加え、日本周辺域は黒潮と親潮がぶつかることにより、高い生物生産性を有しているが、近年漁獲の減少や魚種の変化が大きな社会問題となっている。以上の背景をもとに本学術変革領域研究「ハビタブル日本」(Hotspot3)では、対象を大気・海洋の物理から、大気・海洋の化学、海洋生態系、水産へと拡張し、「日本に住む我々の生存基盤をなしてきた温和な気候、豊かな水・水産資源は、今後も持続するのだろうか?」という問いに解答する。

研究項目A01:温暖化する中緯度大気海洋における変動の理解とメカニズム解明

大気観測用ラジオゾンデ
の放球

黒潮や親潮、対馬暖流など、日本周辺の海流の変動・変化を統合的に解明し、沿岸の海洋熱波や海洋生態系への影響を明らかにする(A01-1海洋変動班)。また、日本海(2026年1月)、三陸沖(2026年6~7月)、九州南西の東シナ海(2026年6~7月)においてCTD・XCTDやラジオゾンデ等を用いた船舶集中観測を行い、海洋前線や海洋熱波が大気循環や降水に及ぼす影響を探る(A01-1、A01-2豪雨豪雪班)。さらに、東アジア・北太平洋域における大気と海洋の広域の熱波・寒波を大気海洋結合現象と捉え、そのメカニズムを解明する(A01-3熱波寒波班)。

研究項目A02:次世代の大気海洋研究を切り拓く新手法の開発と素過程の解明

海洋観測フロート

大気・海洋の変動の理解を予測につなげるためには、素過程の解明とモデル化が不可欠である。水温・塩分・溶存酸素・pH・クロロフィルセンサーを搭載したプロファイリングフロートを黒潮続流周辺域に展開し、船舶による現場観測と合わせ、海洋表層での生物生産・分解過程を解明する(A02-4 CO2班)。また、太平洋(父島)と日本海(舳倉島。珠洲市の代替サイトを検討中)の離島2か所で連続観測を実施し、海面付近で波飛沫によって生じる微粒子が大気・海洋間の熱・物質交換過程に及ぼす影響を明らかにする(A02-5微粒子班)。さらに、場に多く存在する不連続を包み込み、大気・海洋・海洋生態系結合過程をモデルで再現するためのデータ同化手法を創出する(A02-6同化班)。

研究項目A03:温暖化する中緯度大気海洋環境の変動予測と持続可能性の評価

黒潮の大蛇行や海洋熱波といった海洋極端現象の予測の可能性を評価し、海洋生物資源への影響を解明する(A03-7大蛇行班)。また、温暖化に伴い変調するモンスーン、ならびにモンスーンに内在する豪雨や豪雪等の極端気象の予測に挑戦する(A03-8モンスーン班)。さらに、グローバルな視点から、熱帯・極域と双方向作用する中緯度の気候変動と将来変化を解明する(A03-9気候変動班)。


重要海域が目の前にあるという地の利を生かした現場観測と、最先端の数値シミュレーションが、本研究領域の活動の両輪である。観測では、東北地方を挟む日本海と太平洋、そして九州南西の東シナ海の3か所で船舶による大気・海洋の集中観測を行うほか、多項目センサーを搭載したフロートを黒潮続流周辺域に展開する。さらに、太平洋と日本海の離島2か所で、波しぶきによって生じる大気中微粒子の連続観測を行う。同時に、大気海洋現象の診断と予測のため、領域モデルから地球温暖化予測を行う全球モデルまで、時空間スケールや予測の対象が異なる数値モデルを複合的に用いた、階層的なモデル研究を実施する。このように、急速に海水温上昇が進む日本周辺域を中心として、大気から海洋、水産まで、また現場観測から予測までを貫く研究を行うことにより、統合的大気海洋学を創出し、今後の将来予測の新たな礎を築く。

本研究領域のターゲット

計画研究紹介

総括班

X00 総括班
ハビタブル日本の統括と推進

岡 英太郎
東京大学

研究項目A01:温暖化する中緯度大気海洋における変動の理解とメカニズム解明

A01-1 海洋変動班
A01-2 豪雨豪雪班
急速に温暖化する日本近海の海洋前線と豪雨・豪雪

本田 明治
新潟大学

A01-3 熱波寒波班
頻発する大気・海洋の熱波となくならない寒波

小坂 優
東京大学

研究項目A02:次世代の大気海洋研究を切り拓く新手法の開発と素過程の解明

研究項目A03:温暖化する中緯度大気海洋環境の変動予測と持続可能性の評価

公募研究紹介

第1期(令和7~8年度)

AXX-X
公募研究タイトル

氏名
所属

AXX-X
公募研究タイトル

氏名
所属

AXX-X
公募研究タイトル

氏名
所属