若手海外短期派遣の募集
NEWS:「アウェイ出張」第2号の報告書を載せました。このページの一番下へ(2025/4/5)
2024年9月17日 岡 英太郎(領域代表)
このたび、総括班予算による若手の海外短期派遣の募集を開始します。Early Careerの皆さんは、奮ってご応募ください。また、Early Careerの指導教員やボスの方、ならびにECHOESの年長の方々は、派遣先の候補を一緒に考えてあげるなど、Early Careerの方の応募をぜひ後押ししてあげてください。
対象: 原則として、大学院博士課程の学生ならびにポスドクレベルの研究者
募集人数: 毎年若干名
採択条件: できるだけ「アウェイ度合いの高い海外出張」であること(下記の趣旨を参照)。単なる普通の国際学会参加のような計画は採用しません。ただし、「国際学会参加のついでに滞在を1週間延長し、アウェイ感を味わいたいので、その延長分の滞在費を申請する」というような計画は審査の対象とします。
応募時期: 随時。予算執行の都合上、行きたい出張よりも十分前に応募してください。なお、応募の前段階として、こんな応募を考えているんだけど、と岡にカジュアルに相談してくれるもOKですし、そうしてくれると非常に助かります(この相談も、早ければ早いほど有難いです)。岡に相談するのはハードルが高い…という方は、ECHOES世話人(岡島・木戸・西川・林田)にご相談ください。
応募方法: 指導教員またはボスとご相談の上、出張計画(日程、訪問先、内容、必要経費、期待されるアウェイ度合い、参加への意気込みなど)を作成し、岡にメール提出してください。様式は自由です。往復の航空運賃が含まれる計画でも含まれない計画でもよいです。
審査方法: 総括班で相談し、アウェイ度合いの高そうなものを採択していきます。特に、それがその人にとって初めての「アウェイすぎる出張」である場合は優先して採択します。
問合せ先: ご不明の点は岡までお気軽にお尋ねください。
趣旨:
2024年6月1日に東大AORIで行われた総括班会議のあとの懇親会で、中堅~シニアの6名くらいで酔って話していた時に、その場にいた全員に「苦痛を伴う、逃げ場のない海外出張」の経験があり、それが自分たちの成長に大変役立ったということで意見の一致を見た。要は「アウェイ度合いの高い海外出張」ということである。この体験をEarly Careerの人たちにもしてもらい、将来の日本の大気海洋科学を担う人材に成長してもらいたいというのが本企画の意図である。
若い人の中には「アウェイ度合いの高い海外出張」と言われてもピンとこない人も多いと思うが、よくあるパターンとしては、
- 国際プロジェクトなどのワーキンググループやサマースクール
- 日本人が自分1人かごく少数で、隔離された環境
- 会議だけでなく、毎度の食事まで同じメンバー。無駄に長い休み時間。ひたすら英語
- しばしば発言が求められ、「聞いているだけ」が許されない
といったところである。以下のヒント集を参考に、ぜひ挑戦してほしい。
0.色々な国際会議等々の情報(Google共有ドライブ「HS3all」の中のドキュメント。どなたでも加筆可。ご協力を)
1.「アウェイ度合いの高い海外出張」の体験談
岩本洋子(A02-5代表)
ポスドク1年目で参加したSOLAS(Surface Ocean and Lower Atmosphere Study)のサマースクール(SOLAS SS)。夏のフランス・コルシカ島に2週間滞在。主催者側でいくつかのシェアハウス?コテージ?が借りられており、基本的にはそこに相部屋で滞在する。(幸か不幸かルームメイトがビザの問題で参加できず、一人部屋だった。)地理的な要因もあり、参加者のほとんどは欧米人で日本人は自分ひとり。朝は講義、午後は実習や発表にあてられており、長い昼休みは食事のみならず海水浴も含む。結局マイノリティのアジア人同士で過ごす時間が多かったが、共通語が英語であることには変わりなくしんどかったが刺激になった。その場で成長できたのかは不明だが、縁あって10年後の札幌で開催されたSOLAS国際会議では、Early Career Scientist Dayの世話人をやったり、大御所とセッションをco-chairしたりと経験値は上がったと思う。
岡島悟(A01-3)①
学位を取ってしばらくはコロナ禍、数年ぶりの海外出張で2022年に参加したstormtracks2022(中緯度ストームトラックのワークショップ)。参加者は80人強で、フランスのオレロン島という都会から離れた場所のCNRSの保養所のようなところで、参加者全員が5日間敷地内のロッジに宿泊し、食堂(しかも長机)で朝昼晩を食べるという開催形式だった。ちなみに日本からの参加者は3人で(アジアの大学という括りでも3人)、元からの知り合いもそれほど多くはなかった。研究発表の時間はまだ良いのだが、食事や休憩時間も他参加者と英語でコミュニケーションを取るしかなく、逃げ場がないという状況。特に、毎朝起きて朝食のために食堂に行くと、即誰かの隣に座って英語でカジュアルな会話を始めるモードに自分を切り替える必要があり、刺激的だった。夜も日によっては2~3時まで会場のバーで大勢がだらだらと話しており、10人くらいが椅子を円形に並べて雑談する中に入ってカジュアル?な会話に参加した。時差ボケに加えて会話に付いていくので精一杯で正直あまり楽しめなかったが、良い経験になった(こういう時の話題の方向性が地域によって異なる、という当たり前の事実を自分の経験として認識できた)。会期中に任意参加のテニス大会が開催されており(私は未経験のため参加しなかったが)、テニスってそういうためにあるんだ、と初めて合点がいった瞬間だった。会議のClosingではearly careerの発言を促す時間があり、学生が全体向けに「こういう研究が必要だ」と積極的に発言しているのを見て、我々もこうでなければ、と痛感し、わざわざ日本から参加した国際学会等で何も発言せずに帰ることがいかにつまらないか、ということをそれ以降感じるようになった。
岡島悟(A01-3)②
2024年のOcean Sciences Meetingの直前に参加したOASIS(Observing Air-Sea Interactions Strategy)のワークショップ(WS)。海洋の現場観測・衛星観測に関する議論がメインで、私の専門ではなかったが、そういったWSの経験がそれまでなく、誘われたこともあって参加した。参加者は現地が40人くらい(オンラインもある程度いた)、日本人の知り合いはゼロ(知り合いでなかった日本人の方は1、2人いたがほとんど話さず)、参加者の大半はヨーロッパ・アメリカで海洋観測orモデリングor衛星観測に関わっている方だった。参加者で意見を出し合って集約する事がWSの主目的であるため、breakout sessionの割合が非常に高く(breakout+report outが2回×2日)、6~7人のグループに分かれてテーブルに着き、発言する、rapporteurとして議論をまとめて報告する、などの貢献を行う事が必須なintenseなWSだった。breakoutの時間は、専門でないテーマの議論(とても勉強にはなった)において、欧米のFunding Agencyの状況を踏まえて発言することが時として期待される(これもとても勉強にはなった)のは、かなりタフだった。会場はホテルの宴会場で丸テーブルが比較的大きく部屋の音響も良くないため、向かいの人の英語は驚くほど聞き取れない。rapporteurは各グループで都度決めることになっており、面白そうだからと1セッションで引き受けたのだが、breakoutでは割と好き勝手に話す人も多いので(capacity developmentについて話す時間なのにずっとflux calculationの話をしているなど)、議論が収束せずとても焦った。議論に受け身になって参加すると話題がどんどん自分が話せない内容の方向に行ってしまうので、自分が話せることを話していくのが重要である、と改めて痛感した。
羽角博康さん(学術変革「マクロ沿岸海洋学」領域代表)
1999年、助手になってすぐ、海洋モデリングの今後について議論するCLIVARのWG(IPCCのモデル予測のために各国のモデル評価をしなくてはならないというCLIVARやWCRPからの要請により設立)に入ることになった。もともとボスの杉ノ原先生が呼ばれたのを、お前やれと言われて。最初の年の会場はマイアミ大。エメラルドグリーンの海に囲まれた素敵な場所だったが、各国代表という格好のわずか6、7人のメンバーで2泊3日の円卓会議。海外の経験すらあまりないのに、前乗りしていたせいで眠いふりもできず、ぼーっとしていると「お前はどう思う?」といきなり話を振られる。自分以外は大体10歳以上年上のメンバーばかりで、昼食も夕食も一緒。コーヒーブレークも含め、全く逃げ場がなかった。一方で、「今後の海洋モデルはこうでないとね」という話を平然としていて、うちのモデルは遅れていると痛感、その後2、3年間改良を重ねる強烈なモチベーションになった。
藤井陽介(A02-6)
最近の出張で特に大変だったのは、今年(2024年)5月にスウェーデンで開催された第8回WMO観測インパクトワークショップです。本WSは、今後の地球観測システムの維持・発展に向けて、WMOや観測システムを運営する機関に向けた提言をまとめることを目的としていました。今回から対象を気象予測から海洋・季節予測、海洋観測にも広げるということで、私は海洋観測評価の専門家として科学組織員会に参加したのですが、海洋の専門家は私の他には一人だけしかおらず、海洋分野を代表する責任重大な役割でした。しかも、気象とか海洋の分野の違いで分けずに分野間の交流を促すという昨今のWMO方針に従いセッションが構成され、アルゼンチンのMariana Barrucandさんと評価手法や研究協力に関するセッションを担当したため、気象関連の発表申し込みも見ながらからセッション構成を検討する必要があり、全く知見のない航空機観測データの新しい通報方式や衛星掩蔽観測に関する国際共同研究について調べたりと、準備の段階からかなりハードな内容でした。
さらに、WS本番ではセッションの座長を務めるほか、ディスカッションでセッションの発表内容をレビューし、関連する提言を決めるための議論をリードすることが求められました。しかも、担当するのが最後のセッションで、短い休憩をはさんだ後の最終セッションで提言案を報告しなければならないという、ほぼいわゆるムリゲーの状態でした。Marianaさんからは、英会話が苦手なのでフォローしてほしいとお願いされ、それはこちらからお願いしたかったのにと思いつつ、夜に飲みに行くのをあきらめ、Marianaさんとホテルで、事前に頂いた発表スライドなどを元に、ディスカッションの下準備や提言案の検討を行い、何とか役目を果たすことができました。
終了翌日には、科学組織委員会が行われ、会議報告書の担当セッションの節のドラフトを、最初の1時間で作成するように指示され、そんなのは日本に帰ってからゆっくりやりたいと思いつつこなしました。そのあとは提言案として何を採択するか、文面はどうするかについて、細かな議論を行いました。つたない英語で色々話して、必要な海洋観測に関連する提言を、なんとか採用して頂きました。
さて、科学研究に必要な環境の整備については、地球システム観測網などはその典型ですが、多くの場合、国際協力の下行われていて、ほとんどは研究者のボランティアでの協力で成り立っています。そのため、関連する国際研究コミュニティの活動に積極的に参加していくことは、今後の我々の研究を充実させていくためにも必要不可欠です。また、自らの研究内容を国際的なホワイトペーパーや提言などに取り入れてもらうためにも、普段からの研究コミュニティーへの貢献が不可欠です。なぜ日本の研究がホワイトペーパーに取り上げられないのだろうという疑問を耳にすることがありますが、コミュニティに参加していない日本人の研究が、ホワイトペーパーなどに取り上げられるはずがありません。研究コミュニティの運営の様な政治的なことは、経験を重ねたそれなりのポジションの方に任せたいと思われるかもしれませんが、コミュニティから信頼を得るためには若い頃から長年参加して、顔を覚えてもらうことが重要です。偉くなってから突然コミュニティの委員等になっても、なんの仕事もできません。現に、日本以外ではECOPと呼ばれる若手研究者も積極的に参加しており、共同議長などを務めているケースも多数あります。
まずは、自分の研究分野に関係する小さめのWS等に出席し、付随する活動に積極的に貢献することをおすすめします。また、CLIVARの専門家パネルやOceanPredictの専門家タスクチームなどについては、国外の若い方も多数参加していますので、日本の若手にも積極的に参加して頂けたらと思います。(年長の方々には、若手を積極的に推薦するようお願いします。)その他、私も経験がありますが、国際コミュニティーが主催するサマースクールに参加するのもおすすめです。大抵、他の外国人と協力して課題をこなすことになると思いますが、そこで外国の方の考え方に触れ、コミュニケーション力を鍛えることができるかと思います。私の時は、組んだ外国の方々が期限内に成果をとりまとめる気がほとんどなく、自分ばかりが焦っていましたが、それも良い経験になっています。
岡英太郎
2017年から2023年まで(割と最近)、GOOSおよびGCOSの下にあるOOPC(気候のための海洋観測パネル)の委員を7年間務めた。要は、世界の海洋観測をありとあらゆる面から推進するパネル。15名ほどのメンバー中、日本人は自分だけ。年1の会合に初めて出たときは、会話がとにかく分からなくて泣きたくなった(英語が聞き取れない + たとえ日本語で聞いても話している内容があまり分からない)。海洋観測の中でもArgoやhydrographyなどに偏った自分と違い、ありとあらゆる観測手法、熱帯から極まで、観測からデータ同化まで精通する仲間たちに圧倒される。しかも、そんな仲間たちが、これまた底抜けにいい人ばかりで、逃げ道なさ過ぎて絶望。。。英語はその年からラジオ英会話を聞き続けて何とか人並みになり、観測の方も他の人たちは(日本人と違って)自分の言いたいことを言ってるだけだと分かってからはだいぶ気が楽になったものの、、、とにかくこのアウェイ感のお蔭でずいぶんと鍛えられた(アラフィフになっても!)。来世はこういう経験を若い時にして、立派な研究者になってOOPCにもっと貢献したい。
榎本剛(A02-6)
私のかつてのアウェイ出張報告です。
羽角・榎本, 1998: フランスでのNATO夏の学校「地球の気候とその変動のモデリング」に参加して. 天気, 45, 241-243.
榎本, 2001: 英国王立気象学会150周年記念会議「千年紀における気象学」報告. 天気, 48, 81-87.
2.「アウェイ度合いの高い海外出張」をできそうな場の紹介
林田博士(A02-6)
- 英語圏の国内気象海洋学会(カナダのCMOSとかオーストラリアのAMOSやAMSA)。日本人少なく、周りは知り合い同士で輪の中に入りづらくて完全アウェー。特にカナダ人は早口が多くて理解できない。
- 発言を求められる雰囲気が漂うワークショップ(PICESの本会議前後のWSとか。知り合いのいないところへ参加するのがおすすめ)。WSの中でbreakout sessionを設けたりする場合は発言することが必須となる。
- Early career向けのイベントが併設された学会(ゴードン会議とか)。これはearly careerが馴染めるよう建設的なので上記2つと比べると少ない苦痛で成長できる。
榎本剛(A02-6代表)
- データ同化関連ですと、EnKF workshopやAdjoint workshop、力学コアだとWorkshop on the Partial Differential Equations on the Sphereのようなマニアックな会議が辺鄙なところで合宿に近い形で行われるので楽しいです。(苦痛を伴います。)
- 大学や研究機関、現業機関でセミナーをするのもよい経験になると思います。
3.「アウェイ出張」報告書